この記事について
Databricks と Snowflake はデータ基盤市場の2大プレイヤーである。出自も設計思想も異なるのに、なぜ競合と言われるのか。この記事では両者の違い、Snowflake の強み、そして公開事例から見るユースケースを整理する。
1. そもそも何が違うのか
1-1. 出自の違い
| Databricks | Snowflake | |
|---|---|---|
| 創業 | 2013年 | 2012年 |
| 出自 | Apache Spark の開発者(UC Berkeley) | Oracle のエンジニア3名 |
| 原点 | 分散処理エンジン(Spark) | クラウドネイティブ DWH |
| 上場 | 未上場 | 2020年 NYSE 上場 |
| 思想 | 「データレイクに DWH の機能を追加」 | 「DWH をクラウドで再発明」 |
1-2. アプローチの違い
Databricks(ボトムアップ):
データレイク(S3)
→ Delta Lake で ACID を追加
→ SQL Warehouse で SQL 分析を追加
→ 「レイクハウス」の完成
Snowflake(トップダウン):
クラウドネイティブ DWH
→ 外部テーブルでデータレイクに対応
→ Snowpark で Python/ML を追加
→ 「Data Cloud」の完成
つまり、Databricks はデータレイク側から DWH に攻め込み、Snowflake は DWH 側からデータレイクに攻め込んでいる。結果として同じ領域で競合するようになった。
2. Snowflake の何がすごいのか
2-1. アーキテクチャ
Snowflake の革新は「コンピュートとストレージの完全分離」を最初から実現したこと。
┌─────────────────────────────────────────┐
│ Cloud Services Layer │
│ 認証、メタデータ、クエリ最適化、トランザクション │
└──────────────────┬──────────────────────┘
│
┌──────────────┼──────────────┐
▼ ▼ ▼
┌─────────┐ ┌─────────┐ ┌─────────┐
│Virtual │ │Virtual │ │Virtual │
│Warehouse│ │Warehouse│ │Warehouse│ ← 独立したコンピュート
│(XS) │ │(L) │ │(XL) │
│BI用 │ │ETL用 │ │DS用 │
└─────────┘ └─────────┘ └─────────┘
│ │ │
└──────────────┼──────────────┘
▼
┌─────────────────┐
│ Cloud Storage │ ← 共有ストレージ(S3/Azure Blob/GCS)
│ (データは1箇所) │
└─────────────────┘
2-2. Snowflake がすごい5つのポイント
① ゼロ管理
従来の DWH(Redshift Provisioned):
ノードタイプ選択 → クラスタサイズ決定 → Distribution Key 設計
→ Sort Key 設計 → VACUUM 実行 → WLM 設定 → ...
Snowflake:
CREATE TABLE → INSERT → SELECT
→ インデックス不要、チューニング不要、VACUUM 不要
→ 「データを入れて SQL を書くだけ」
Snowflake は自動的にマイクロパーティション(16MB)に分割し、メタデータ(min/max)を管理する。ユーザーが Distribution Key や Sort Key を設計する必要がない。
② ワークロード分離
Redshift:
1つのクラスタを BI + ETL + アドホックで共有
→ ETL が重いと BI が遅くなる(リソース競合)
Snowflake:
BI用 Warehouse(XS) → BI クエリ専用
ETL用 Warehouse(L) → ETL 専用
DS用 Warehouse(XL) → 重い分析専用
→ 完全に独立。互いに影響しない。同じデータにアクセス
③ 瞬時のスケーリング
Virtual Warehouse のサイズ変更が数秒で完了する。
通常時: XS(1クレジット/時間)
↓ 月末の重い集計が始まる
3XL に変更(128クレジット/時間)← 数秒で切り替え
↓ 集計完了
XS に戻す ← 数秒で切り替え
④ タイムトラベルとフェイルセーフ
タイムトラベル(最大90日):
SELECT * FROM sales AT(TIMESTAMP => '2024-04-01 00:00:00');
→ 過去の任意の時点のデータを参照
フェイルセーフ(7日間):
タイムトラベル期間を過ぎても、Snowflake が内部的に7日間保持
→ サポートに依頼すれば復旧可能
⑤ データシェアリング
従来のデータ共有:
データをエクスポート → S3に置く → 相手がインポート
→ コピーが増える、鮮度が落ちる、管理が大変
Snowflake Data Sharing:
GRANT USAGE ON SHARE sales_share TO ACCOUNT partner_account;
→ データのコピーなし。相手がリアルタイムで参照
→ Snowflake Marketplace でデータを売買することも可能
3. Databricks vs Snowflake 詳細比較
| 観点 | Databricks | Snowflake |
|---|---|---|
| 核心技術 | Spark + Delta Lake | クラウドネイティブ DWH |
| SQL 性能 | 高い(Photon) | 非常に高い(SQL に最適化) |
| Python / Spark | ネイティブ(本業) | Snowpark(後発) |
| ML / AI | MLflow、Feature Store、DBRX | Snowpark ML(発展途上) |
| ストリーミング | Structured Streaming(強い) | Snowpipe(取り込みのみ) |
| データフォーマット | オープン(Delta Lake / Parquet) | プロプライエタリ(内部形式) |
| データシェアリング | Delta Sharing(OSS) | Snowflake Marketplace(成熟) |
| ガバナンス | Unity Catalog | Horizon(旧 Governance) |
| 管理の手軽さ | クラスタ管理が必要 | ほぼゼロ管理 |
| マルチクラウド | AWS / Azure / GCP | AWS / Azure / GCP |
| コスト透明性 | DBU(やや複雑) | クレジット(シンプル) |
| ベンダーロックイン | 低い(オープンフォーマット) | 高い(データが Snowflake 内部形式) |
3-1. どちらが強い領域
Databricks が強い:
├── Spark / Python による大規模データ処理
├── ML / AI ワークロード
├── ストリーミング処理
├── 非構造化データの処理
└── オープン性(ベンダーロックイン回避)
Snowflake が強い:
├── SQL 分析(チューニング不要で高速)
├── 管理の手軽さ(ゼロ管理)
├── ワークロード分離
├── データシェアリング / マーケットプレイス
└── BI アナリスト向けの使いやすさ
4. 公開事例から見るユースケース
4-1. Databricks の公開事例
Comcast(米国最大のケーブルTV) – 課題:数PBのデータを複数のツールで管理、サイロ化 – 採用理由:Spark ベースの統合プラットフォーム、ML パイプラインの統合 – 構成:Delta Lake + MLflow で推薦エンジンを構築 – ポイント:ML が主要ユースケース。Spark の処理能力が決め手
Shell(エネルギー) – 課題:IoT センサーデータ(数十PB)のリアルタイム分析 – 採用理由:Structured Streaming + Delta Lake でバッチとストリーミングを統合 – ポイント:非構造化データ + ストリーミング + ML の組み合わせ
Regeneron(製薬) – 課題:ゲノムデータ(PB級)の分析基盤 – 採用理由:Spark の分散処理能力、Python エコシステムとの統合 – ポイント:データサイエンティストが主要ユーザー。SQL だけでは不十分
共通パターン: – PB級のデータ – ML / AI が主要ユースケース – データサイエンティストが主要ユーザー – ストリーミングや非構造化データを含む
4-2. Snowflake の公開事例
Capital One(金融) – 課題:オンプレ DWH のクラウド移行、コスト削減 – 採用理由:ゼロ管理、ワークロード分離、セキュリティ – ポイント:SQL 中心の分析。管理コストの削減が決め手
Instacart(EC/配達) – 課題:急成長に伴うデータ量の爆発、スケーラビリティ – 採用理由:瞬時のスケーリング、同時実行性能 – 構成:Snowflake + dbt で ELT パイプライン – ポイント:BI アナリストが自分で分析できる環境
Western Union(送金) – 課題:グローバルなデータ共有、規制対応 – 採用理由:Data Sharing でグループ会社間のデータ共有 – ポイント:データシェアリングが決め手
Office Depot(小売) – 課題:複数の DWH を統合、コスト削減 – 採用理由:Snowflake に統合してコスト70%削減 – ポイント:DWH 統合 + コスト削減
共通パターン: – SQL 分析が中心 – BI アナリストが主要ユーザー – 管理の手軽さ・コスト削減が重要 – データシェアリングのニーズ
4-3. 両方使っている事例
実は大企業では Databricks と Snowflake を併用するケースが多い。
典型的な併用パターン:
[データソース]
│
▼
[Databricks] ← ETL、データ加工、ML
│
▼
[Snowflake] ← SQL 分析、BI、データシェアリング
│
▼
[BI ツール]
- Databricks:重い処理(ETL、ML、ストリーミング)
- Snowflake:軽い処理(SQL 分析、BI、データ共有)
5. 選定の判断基準
| 判断軸 | Databricks を選ぶ | Snowflake を選ぶ |
|---|---|---|
| 主要ユーザー | データサイエンティスト、DE | BI アナリスト、ビジネスユーザー |
| 主要ワークロード | ML、ストリーミング、大規模 ETL | SQL 分析、レポート、ダッシュボード |
| データの種類 | 構造化 + 非構造化 + ストリーミング | 構造化中心 |
| チームのスキル | Python / Spark に強い | SQL に強い |
| 管理の許容度 | クラスタ管理を許容できる | ゼロ管理が必須 |
| ベンダーロックイン | 避けたい(オープン重視) | 許容できる |
| データ共有 | 限定的 | 重要(Marketplace 活用) |
| 予算 | 大規模処理のコスパ重視 | 管理コスト削減重視 |
迷ったときの判断
「SQL だけで済む?」
├── はい → Snowflake
└── いいえ
└── 「ML / ストリーミングが必要?」
├── はい → Databricks
└── いいえ
└── 「管理の手軽さが最優先?」
├── はい → Snowflake
└── いいえ → Databricks
6. 両社の今後の方向性
Databricks の動き
- SQL Warehouse の性能強化(Snowflake の領域に攻め込む)
- DBRX(自社LLM)、Mosaic ML 買収 → AI プラットフォーム化
- Delta Lake UniForm(Iceberg / Hudi 互換)→ オープン性の強化
- Databricks Marketplace → データシェアリング市場に参入
Snowflake の動き
- Snowpark(Python / Java / Scala)→ Databricks の領域に攻め込む
- Snowflake Cortex(LLM 機能)→ AI 市場に参入
- Iceberg Tables(Apache Iceberg サポート)→ オープン性の強化
- Unistore(OLTP + OLAP 統合)→ トランザクション処理にも対応
両社とも相手の強い領域に進出しており、機能差は縮まりつつある。
7. まとめ
| 質問 | 答え |
|---|---|
| なぜ競合? | Databricks はレイク→DWH、Snowflake はDWH→レイクに進出し、同じ領域で衝突 |
| Snowflake の何がすごい? | ゼロ管理、瞬時スケーリング、ワークロード分離、データシェアリング |
| Databricks の何がすごい? | Spark/ML/ストリーミングの統合、オープン性、レイクハウス |
| どっちを選ぶ? | SQL中心→Snowflake、ML/ストリーミング→Databricks、大企業→併用 |
参考文献
- Databricks. “Customers.” https://www.databricks.com/customers
- Snowflake. “Customers.” https://www.snowflake.com/en/data-cloud/customers/
- Snowflake. “Architecture Overview.” https://docs.snowflake.com/en/user-guide/intro-key-concepts
- Databricks. “Lakehouse vs Data Warehouse.” https://www.databricks.com/glossary/data-lakehouse
- a16z. “Emerging Architectures for Modern Data Infrastructure.” 2020.