TL;DR
- VIX 15 以下では Volatility Risk Premium (VRP) が痩せて carry が薄い。VIX 50 超は保険金支払いが連鎖し、買い手も流動性を失う
- VIX 25-35 のレンジで volatility 売り戦略の expected edge が最大化されやすい
- 根拠: IV の mean reversion 性、保険売り手の long-run α、loss aversion、機関投資家の risk parity unwind
- ただし「ちょうどいい恐怖」を機械的に取りに行くと、structural break で大きく崩れる
Hook
「保険会社が一番儲かるのは、リスクが現実的だがパニック寸前ではない時」
Volatility 売り戦略 (PutWrite、short straddle、covered call) が長期で edge を持つことは academic literature で確立されている。だが、「いつ」売るかの timing は edge の大きさを大きく左右する。VIX が 12 でも 60 でもなく、25-35 のレンジに edge が集中するという経験則がある。なぜか。
Background — VRP と IV の構造
Volatility Risk Premium (VRP) は「implied volatility (IV) が realized volatility (RV) を時間平均で上回る」現象。Bollerslev, Tauchen, Zhou (2009) や Bondarenko (2014) は、SPX オプション市場で IV が RV を 2-4% (年率換算) 上回る long-run プレミアムが存在することを実証した。
これは「保険料と保険金支払い額の差」と読める。市場参加者はテール risk を恐れ、保険料を割高に払い続ける。保険売り手 (volatility seller) は long-run でこのプレミアムを harvest する。
IV の mean reversion
Black-Scholes は IV が constant な log-normal を仮定するが、実証的には IV は時系列で mean reversion する。historical mean は 18-22 程度 (S&P 500 で)、shock 時に跳ね上がるが時間とともに戻る。これは Whaley (1993) “Derivatives on Market Volatility” 以来知られている性質。
この mean reversion 性が、「IV が高い時に売る、低い時に買い戻す」戦略の理論的基盤となる。
Theory — 3つの帯域での挙動
VIX を 3 帯域に分けて整理する。
低 IV 帯 (VIX < 18)
- IV が historical mean に近い、もしくは下回る
- VRP の magnitude が小さい (IV – RV のスプレッドが薄い)
- volatility 売りの期待 carry が痩せる
- 一方で「複合 risk が顕在化していない」だけで、tail risk は同じく潜在
- 結論: 売り手の期待リターンは小さく、payoff 曲線の歪みだけが残る
中 IV 帯 (VIX 25-35)
- IV が historical mean を超え、market が「警戒モード」
- VRP が拡大: market は「これから何か起きるかも」と過剰に保険料を支払う
- まだパニックではない: 流動性は存在、bid/ask spread も合理的
- mean reversion 期待: 「結局何も起きなかった」場合に IV が下がるシナリオ
- 結論: 期待 carry が最大化されやすい帯域
高 IV 帯 (VIX > 50)
- パニック / クラッシュ進行中
- 保険金支払いが連鎖、保険売り手も損失を被る
- 流動性が枯渇: bid/ask が広がり、約定が困難
- 機関投資家の risk parity unwind による self-reinforcing 売り
- mean reversion 期待は機能するが、それまでに drawdown を耐える資金力が要る
- 結論: 理論上は最も attractive だが、retail には流動性とサイズの問題で機能しにくい
Concrete example
教科書的な数値感覚。S&P 500 で SPX put を売ると仮定:
| VIX レベル | put strike | premium 比率 | 期待 carry (annualized) |
|---|---|---|---|
| 12 | 5% OTM | 0.5% | 約 +2% |
| 30 | 5% OTM | 1.5% | 約 +6% |
| 60 | 5% OTM | 4.0% | 約 +12% (ただし drawdown risk 大) |
低 IV では premium が薄く、capital efficiency が悪い。高 IV では premium は厚いが、tail event で premium 数年分を 1 回で吐き出す。中 IV で売る方が、Sharpe ratio で見ると高い、というのが歴史的傾向。
なお具体的な数字は商品・期間で大きく変動するため、上の表は概念の orientation 用。実際の数値を参照するなら CBOE が公開する PUT Index / BXM Index methodology の論文を当たるのが一番堅い。
Limitation / Counter-argument
1. Structural break
「VIX 25-35 で売る」が機能してきたのは、過去のレジームでの話。中央銀行の介入様式変化、新興 derivatives 商品の登場、retail フローの変化で構造が変わる。例えば 2020 年以降、retail option flow の増大で IV の形状が変化した、と複数の academic 研究が指摘。
2. 「ちょうどいい恐怖」を待つ機会コスト
VIX が 25 を超えるのは年に数回程度。それを待っている間に、stable 環境での edge を取り損ねる。frequency-adjusted で見ると「常に売る」戦略の方が効率的な場合も。
3. Tail event 1 回で全 premium を吐く非対称性
VRP は long-run では正だが、distribution は強く skew している。「年に 1 回 -50% drawdown」を含むので、心理的・資本的に耐えられる人にしか機能しない。
4. retail の流動性問題
SPX 1 contract の notional は数千万円規模で、retail には大きい。XSP (1/10 sized) や ETF 経由 (PUTW など) で代替可能だが、liquidity が薄い時間帯では bid/ask が広がる。
Practical takeaway
retail で「ちょうどいい恐怖」を狙うなら、以下が現実的:
- PutWrite ETF (PUTW) を使う: VIX 全帯域で機械的に売る。retail で再現可能、capacity 問題なし。ただし VIX-regime sizing は内部で行わない
- VIX 連動の sizing rule: 自分でポジションサイズを VIX レベルで調整する。VIX < 18 で 1x、25-35 で 2x、> 50 で 0.5x のような規律
- 静的 collar の組み合わせ: 売りで稼いだ premium で OTM put を買い、tail 損失を限定する (Israelov 2017 の批判は注意、別記事で扱う)
- 記録と OOS 検証: 自分の sizing rule が backtest 上だけでなく実運用でも機能するかを毎月チェック
ただしこの結果は限定的な期間での観察であり、future performance を保証しない。中央銀行政策・市場構造の変化で前提が崩れる可能性を常に意識すること。
まとめ
VIX 25-35 のレンジで volatility 売り戦略の期待 carry が最大化されやすいのは、VRP の構造、IV の mean reversion、保険料の overpricing が複合的に効いてくる帯域だから。低 IV では carry が薄く、高 IV では支払い連鎖で機能しない。
「ちょうどいい恐怖」を狙う戦略は理論的には合理的だが、structural break、機会コスト、tail event の非対称性、retail の流動性問題という 4 つの limitation を抱える。retail で実装するなら PutWrite ETF + VIX-regime sizing が現実解になる。
参考文献
- Whaley, R.E. (1993). Derivatives on Market Volatility: Hedging Tools Long Overdue. Journal of Derivatives, 1(1), 71-84.
- Bollerslev, T., Tauchen, G., Zhou, H. (2009). Expected Stock Returns and Variance Risk Premia. Review of Financial Studies, 22(11), 4463-4492.
- Bondarenko, O. (2014). Why Are Put Options So Expensive? Quarterly Journal of Finance, 4(3).
- CBOE. VIX White Paper: CBOE Volatility Index.
- Coval, J.D., Shumway, T. (2001). Expected Option Returns. Journal of Finance, 56(3), 983-1009.